flower border

宗次ホール・オフィシャル・ブログ

「クラシック音楽を通じて人と街をやさしくしたい!」クラシック音楽の宗次ホール(名古屋・栄)です♪

録音エンジニアに聞く 「音」の愉しみ

Categoryインタビュー・取材
今日と明日の両日に行われる
オリジナルレーベル公開録音コンサート第2弾
植村太郎&鈴木慎崇 ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ 名楽章集
のご紹介です。


そもそも「宗次ホール・オリジナルレーベル」とは何か?
簡単に言ってしまえば、宗次ホールが独自に作るCDなのですが
代表 宗次德二が、クラシック音楽にこれから親しみたいという方の
「小品はともかく“ソナタ”の ように長い曲は、何から聴いて良いかわからない」
という思いに応えるべく、
オーナー写真
と企画に関わり始まったものです。

すでに昨年9月に第1弾としてCD

ヴァイオリニスト島田真千子さんとピアニスト佐藤卓史さんのデュオによる
「ヴァイオリンソナタの名曲中の名楽章集」をリリース。
詳細はこちらから
古今のヴァイオリンソナタの名曲10曲から、選りすぐりの楽章を抜粋して
コンサートを行い、その模様をライブ録音に収めてリリースいたしました。



さて、今回はその第2弾。
名古屋フィルの客演コンサートマスターとしてもおなじみ、現在日本とドイツを
往復しながら活動している地元出身の植村太郎さんに、ベートーヴェン
ヴァイオリンソナタ10曲の中からそれぞれ1つずつ、印象的な楽章を抜き出して
録音しようというプロジェクトです。
今回ご出演いただくお2人は今年2月にも当ホールにてリサイタルを行った
息のあったお2人です。第1弾の島田さんそして今回の植村さんともに
宗次德二が理事長を務めるNPO法人イエロー・エンジェルより貸与された
名器を使用している点も特色のひとつです。
2月のリサイタルにご出演いただいた際に伺ったインタビューがこちらからお読み頂けます。
0910 植村太郎


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
今回は演奏者のみならず、この録音という部分にも興味を寄せていただきたく
第1弾から録音に携わってくださっている
フルトデル・スタジオの録音エンジニア石黒智史さんに
生演奏と録音の関係、そしてご自身の録音に対する思いを語っていただきました。


石黒智史(いしぐろ・さとし)録音エンジニア
マークレビンソンやJBLなどの高級ブランドオーディオで知られるアメリカの大手音響メーカー
「ハーマン」の日本法人に12年間勤務後に独立し、名古屋市守山区にフルトデル・スタジオを設立。
自然環境音やクラシック音楽の録音を得意とする一方、ドキュメンタリー映像の制作や映画音声の
収録でも活躍中。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

まずは昨年の宗次レーベル第1弾。録音を担当してみていかがでしたでしょうか。
ライブ収録ということで、難しい面もあったのでは?

基本はコンサート録音ですので、お客様の視界の妨げにならないよう、見栄えも考慮
してマイクスタンドを立てなくてはならないというのは、録音エンジニアにとっては
最大の制約です。普通は録音に最適な位置を前提に、奏者やピアノの位置を決めるわけ
ですから・・・。第1弾でもヴァイオリンとピアノの音量バランスを探るのに苦労
しました。そのため完成したCDもマイクに近いヴァイオリンに対してピアノは
引っ込んで聴こえなくもないのですが、これが宗次ホールで聴く自然な響き
とも言えます。「宗次ホールのオリジナル」ですから、やはり宗次ホールのお客様が
「ああ、確かに宗次ホールではこういう響きがするよね」と思っていただけるよう
極力音質を加工せずに制作しました

なるほど、この自然な録音というのが石黒さんのひとつのこだわりだと思うのですが
生演奏と録音されたCDの音との関係についてもポリシーがあるんですよね?

エジソンが蓄音機を発明した1877年以来、オーディオは「どれだけ本物の音に
近づくことができるか」を目標に進歩してきました。事実、現在では、本物の
楽器が鳴っているのかスピーカーの音なのか、判らないほどにまで音質は向上
しています。いわゆる高級・高品質なオーディオ機器では、目の前に音の立体
空間が広がり、生演奏を聴いているかのような擬似体験、そして音楽的な感動
まで得られるようになりました。
ただ、これはこれで素晴らしいことなのですが、私自身はどれだけ生演奏に
近づいたとしても、それを聴いた人に「この演奏を生で聴きたい!」という欲求が
沸き起こらないなら、オーディオの本来の役割を逸脱していると思うのです。
録音された音楽は生演奏を超えられない、もう少し言えば「超えてはならない」
とも言えるのではないでしょうか。

録音エンジニアとしては生の音を再現しようと追求するものだと思って
いたのですが、その反面「生演奏にはかなわない」という感覚をお持ちだ
というのは興味深いことですね。

そうですね、これはなにも演奏にとどまらず私のもうひとつのライフワークである
「自然音」の収録でも感じています。ある時、名古屋市守山区にある龍泉寺に
鐘の音を録りに行きました。このお寺のご住職は1年365日毎朝6時に一度だけ
鐘を撞くお勤めを、何十年と続けられています。そこでオーディオ的に最高の
音を録ろうと狙ったわけですが・・・
石黒さん

早朝に鐘の音を録音するのが日課になったと伺いました。
ええ、最初は1回か2回、行けばいいだろうと思っていました。
しかし一度録音してみて、そもそも、最高の音を録ろうなんて考えが浅はかで
あったことを思い知らされ、それで約1ヶ月間、通いつめました。鐘の響きの
表情は様々に変化し、今にも雨が降りそうな朝には、ゴォーンと低音が長く
響きます。逆に気温も低く乾燥した朝には、キーンと甲高い残響のうねりが
続きます。鐘撞堂の共鳴、境内の建物、地面、木々など、様々な要素とその朝の
気象条件が絡み合って、共振が始まり減衰していく長さや、鐘の響きの表情に
変化が現れるのでしょう。録音においては、そういった響きの表情を余す
ところ無く収録することは不可能です。そして、録音の逆、再生装置にしても
幾らオーディオの性能が向上しても限界があります。ですので、足を運んで
実際に体感すること以外に、知ることは出来ないと感じました。きっとこれは
音楽においても同様のことと思います。

なるほど。そうなると石黒さんの考える録音、あるいはCDというのは
どのようなものなのでしょうか?
CDは、演奏されている作品や演奏家の魅力を少しだけ紹介しているに過ぎない
カタログのようなものです。そう言い切ってしまうと、録音を仕事にしている
自分としてはおかしな話なんですが(笑)。でも、最初にもお話ししたとおり
それを聴いて「これが生演奏だったらいったいどんな風に聴こえたんだろう
是非機会があるなら聴いて見たいなぁ」という気持ちを人の心に沸き起こすような
そういうものが出来たらそれが録音エンジニアにとって、一番のやりがいであり
目指すところではないかなぁと思います。やはり生の音、生の演奏に対して
謙虚であるべきです。録音したものをエンジニアが恣意的にあれこれいじくり回し
本来そこで響いていた音楽とはかけ離れたものにしてはならないと思います。

石黒さんが録音に対してそのような考えを持つに至るまでには
どんな経験があったのですか?

そもそも音楽との出会いは幼少のころから豊富でした。
父がクラシックギター教室を開いていたこと、近所に住む二人の叔母が
それぞれにピアノ、琴の先生であったこと、兄もクラシック音楽ファンで楽器を
奏でたりレコードを聴くことが日常でしたね。初めて録音に興味を覚えたのは
小学校低学年の頃と思いますが、兄からのお下がりでリール式のテープレコーダー
を譲って貰った時です。それはすぐに私のお気に入りになりました。

小学生の頃からとなると、もう筋金入りですね!
まあ確かに珍しいかもしれませんね。しかし、当時のレコーダーの再生音ときたら
自分自身の声を録音してもコンプレックスを感じてしまうようなひどい代物。
それが、中学に入る頃には、レコーダーはカセットテープが主流になっていて、
オーディオブームとフォークソングが絶頂期を迎えていました。小学生の頃に
父親からギターを教えてもらったお陰もあって、ブームに乗ってクラシック
ギターからフォークに持ち替え友人達とグループを組みました。そして、ある
放送局のオーディションに応募するためにデモテープを作りました。当時は、
ラジカセで演奏を一発録りしたテープを送るのが主流でしたが、その時作った
テープは、カセットデッキを駆使して多重録音したものでした。今振り返ると
これが私にとって録音にのめりこむきっかけだったと思います。

その後、アメリカのオーディオメーカーに就職したのも
なるべくしてなったということですね?

それがそうでもなく、大学を卒業してまずは一般企業に勤めました。
しかし、徐々に音楽に関わる仕事がしたいという欲求が留められず、
勤めをやめた後、当時オーディオ専業であったハーマン・インターナショナルの
求人に応募したのです。当時そこでは、AKG、JBL、マークレビンソン、
STUDER、SoundCraft などの名門スタジオ機器ブランドを揃え、そこで培った
技術をホームオーディオやカーオーディオに展開しようとしていました。
研修でカリフォルニアの開発センターに行ったとき、スピーカーが奏でた
クラシックギターの音は、正に目の前で生演奏を聴いているような音楽的な
感動がありました。あれは私の人生において忘れられない衝撃です。ブランドの
一つにもその名を刻んでいる創業者のひとり、マーク・レビンソン氏は、
最近のインタビューでも「オーディオの技術は音楽家に捧げるために存在する」
という変わらぬ信念を語っています。私もまたプロ、アマを問わず楽器を
奏でる皆様に身近で手頃な録音や映像制作サービスを提供したいと思っています。


2013年録音風景
最後に今回の第2弾の録音に向けての意気込みをひとことお願いします!
まずは、録り直しが利かないので、機材の事前チェックなど入念に行い
トラブルの無い録音をと思っています。コンサートにお越し頂いたお客様が
後日CDを聴かれたときに、「また植村さんと鈴木さんの演奏を聴きたいな」と
感じて頂けるような、実在感、現実感のある音を再現したいと思います。
それと同時に、どちらかと言えば、大型のステレオシステムではなく、
どこの家庭にもあるCDラジカセやパソコンでも楽しめるような、心地良い音に
調整したいと思います。高級なオーディオでなくても、植村さんと鈴木さん、
お二人の音楽性、そしてベートーヴェンの魅力が伝わることが第一で、
まさにクラシック音楽をこれから楽しんで行きたいという方を優しく迎え入れる
ような、そんなCDにしたいなと思っています。

関連記事

0 Comments

Post a comment